手ぶら登園保育コラム

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「オムツを早く外して」の要望、どうしたらいい?——よくわかる『保護者対応』の進め方①

「オムツを早く外して」の要望、どうしたらいい?——よくわかる『保護者対応』の進め方①

子どもたちとの直接的なかかわり以外にも、たくさんの仕事を担っている保育士。「保護者対応」は、その中でも特に重要なものの一つです。

子どもの育ち、保護者の関わり方の相談から、いざというときの具体的な家庭支援まで、現場では色々なものが求められます。「こんな相談をされたけど、どうしよう…」と悩まれた経験のある方も多いことでしょう。

この連載では、保育現場で起きたさまざまなケースを取り上げながら、四天王寺大学教育学部・准教授の田辺昌吾先生と一緒に、対応する際のポイントを考えていきたいと思います。

初回は、「生活習慣を早く身につけさせたい」という親御さんの悩み相談からです。

保護者の要望の“背景”を考える

「保護者とのかかわり」「保護者対応」と聞いて、皆さんはまず、どんなことを思い浮かべるでしょうか?

「保育をする上で欠かせないこと」と思う一方で、場合によってはつい、「困ったな」「やっかいだな」という気持ちになってしまうこともあるかもしれません。

こんなとき、多くの人が最初に考えがちなのは、「何を話したらいいのか?」といった返答内容です。けれども、そこで「なぜこのような要望をするのか?」という背景を考えてみると、実は保護者の言葉の裏にある、違った側面が見えてくるのです。

具体的に、今回の相談内容を見てみましょう。

2歳児のクラス担任をしています。クラスの子どもたちのなかに、オムツが外れ、排泄が自立しつつある子がチラホラ見られます。そんななか、保護者のAさんから「うちの子(Bちゃん)のオムツもできるだけ早く外れるようにしてください」と要望がありました。

しかし、Bちゃんの様子を見る限り、もう少し時間が必要だと感じます。この場合、Aさんにどう対応すればいいでしょうか?

この保護者の要望も、一見ただ過剰なもののように思えるかもしれません。ですが、それを「なぜ早くにオムツを外してほしいのか?」のように考え直すと、例えば次のような背景を思い浮かべることができます。

  • 同じクラスにオムツの外れている子がいるので焦っている
  • オムツに排泄をした後の処理をしたくない
  • 育児書に「概ね2歳代にオムツが外れる」と書いてあるのを見た
  • Bちゃんに兄(姉)がいて、その子は今のBちゃんの月齢ではオムツが外れていた
  • 同居している祖父母からのプレッシャーを感じている

ここから、どのようなことが読み取れるでしょうか?共通して伺えるのは、保護者の「子育てへの自信のなさ」「正解のない子育てと向き合うことの大変さ」です。

子育ての方法は、誰かが教えてくれるものではありません。今は社会環境の変化により、幼い子どもと接する経験がほとんどないまま、「わが子ができて初めて」子どもとかかわりを持つ保護者も多いのです。なかには、祖父母や近隣の人たちからの支援を一切得られない方もいらっしゃいます。

保護者の要望の“背景”を考える

また、子育ては自分の思い通りにいかないことも多々あります。葛藤や試行錯誤を日々繰り返していくものですが、それまでの生活体験によっては、「明確な正解のない子育て」に大きなストレスを感じている方もいるでしょう。

そのような保護者の状況に気づけると、“保育の専門家”である保育士に頼りたくなるのも、当然のことなのかもしれない…と思えるようになります。

家庭での様子を聞くことで、理解を進める

では、具体的にAさんには、どう対応すればいいのか。ここではまず、「Bちゃんの家庭での排泄の様子」を聞いてみましょう。それによって、大きく2つのことがわかります。

1つは、「Bちゃんの今の姿(排泄の自立に向かう姿)に対する、Aさんの捉え方」です。

Aさんが、単に「Bちゃんの月齢」という基準でオムツが外れると考えているのか、それとも「Bちゃんが家庭ではトイレに興味を向けたり、排泄の話題を口にしたりする」ので、トイレトレーニングをしたほうがいいと感じているのか。それを知ることで、要望の背景を理解しやすくなりますし、その後の対応にもつながります。

家庭での様子を聞くことで、理解を進める

もう1つわかるのが、「Bちゃんの園での姿と、家庭での姿の違い」です。

このケースでは、保育士は「Bちゃんのオムツが外れるには、もう少し時間がかかりそうだ」と考えています。これは、園での姿から読み取った結果です。

しかし、家庭での様子まではわかりません。排泄についてBちゃんの「今」を理解していくには、保護者の話に耳を傾ける必要があるのです。

それは、集団生活では周りの目を気にして「トイレ」と言い出せない子どもでも、家庭のなかでは、用を足したい素振りなどをすることがあるからです。(もちろん反対に、家庭では終始オムツでも、園では周りの子どもたちから刺激を受けてトイレに向かう姿が見られる場合もあります。)

家庭での姿が園と異なることはめずらしくありません。今回のような「生活習慣」(=園と家庭、両方の生活で獲得していくもの)への相談や要望を受けた場合、まずこの両面から子どもを知ることが、特に重要となります。

「なんでも早くできる」はいいこと?

その上で、今回のケースでは、「子どもの発達」に関する一定の知識も求められます。

排泄が自立するためには、脳で尿意や便意を感じ、膀胱や腸で尿や便をためられる、身体的機能の発達が不可欠です。さらに、「トイレに行きたい」と周囲の人に伝えられることも必要です。相談を受けた保育士は、こういった専門的知識をAさんに伝え、Bちゃんの排泄の自立に向かう姿について、保護者との共通理解を図りましょう。

また、その際は発達そのものの捉え方として、「一人ひとりの育ちを大切にすること」と「“結果”よりも“過程”に目を向けること」を、あわせて伝えてほしいと思います。

「一人ひとりの育ちを大切にすること」とは、個人差があることを理解する、とも言えます。例えば、オムツも2歳になる前に外れる子もいれば、4歳ごろに外れる子もいます。本来、同じクラスの子や兄(姉)、育児書に書かれている“一般的な子ども”と、時期が違っても当然なのです。

保育士は多様な子どもとかかわるなかで、「それぞれの育ちの姿」に触れ、これを支える大切さを実感しています。一方、多くの保護者はわが子の姿しか見る機会がなく、子どもの育ち方に差があることに気づきにくい。だからこそ、日々の保育での経験を、ぜひ保護者とのかかわりで伝えてほしいのです。

「なんでも早くできる」はいいこと?

もう1つ伝えてほしいのは、「“結果”よりも“過程”に目を向けること」です。

“結果”(この場合、オムツが外れること)ばかりを気にすると、「早くできてほしい」「だから、専門家である保育士にしてもらったほうが上手くいく」などの考えに至るかもしれません。

ですが、その達成に向かう“過程”に目を向けられれば、子どもや保護者のがんばり、親子のかかわりや保育士との関係構築に、光を当てることができます。

「トイレに行きたい」と言うようになったBちゃんを褒めたり、しばらくしてトイレに行くのを嫌がるようになったBちゃんに悩んだり、そのことを保育士に相談して、自分なりにいろいろと試したり…。Bちゃんの排泄が自立に向かう過程は、保護者自身の力になっていきます。保護者が経験したことそのものが、その後の子育ての支えとなっていくのです。

保護者とつながるチャンスと捉える

今回のケースでは、ここまで述べてきた内容と合わせて、家庭でできそうな具体的手立てを、保護者の理解を得ながら提案していくことも大切です。

例えば、「トイレ(排泄)の話題をさりげなくしてみること」や「オムツで排尿・排便したときに、尿意や便意を事前に感じたかを聞いてみること」「排尿・排便の間隔(時間)を調べてみること」などです。トイレトレーニングを始めるタイミングを、保護者と共に探っていくこともできます。

しかし、最も重要なのは、「オムツを早く外してほしい」という要望をきっかけに、保護者とのコミュニケーション機会をつくっていくことです。クレームではないかと、変に身構えてしまうことがあるかもしれませんが、ぜひ「保護者とつながるチャンスだ」と捉えてほしいと思います。

保護者とつながるチャンスと捉える

保育所保育指針の第4章『子育て支援』には、子育て支援の目的として、保護者が有する「子育てを自ら実践する力」の向上が挙げられています。これを実現するには、保護者が子育てに向き合い、「自分自身が子育ての主体だ」と認識することが不可欠です。

皆さんは普段から保護者に、園での子どもの姿を積極的に伝えようとされていると思います。それに加えて、今回のような相談を通じて「子育てについて話す時間」をつくることは、保護者自身が主体性を確認する機会にもなっていきます。

同時に、保護者にとっては、「子育てを共に歩んでくれている存在がいる」と感じられることが、大きな支えとなるでしょう。この安心感の先に、園と家庭が子どもを間に挟んで、「互いに協力して子どもを育てている」と感じられる状態が生まれていきます。

保育士と保護者とのかかわりも、信頼関係があってこそです。それを築くためにも、まずは保護者の思いを受け止め、「Bちゃんの排泄の自立に向けて、一緒に考えていきましょう」というメッセージを共有していってほしいと思います。

田辺昌吾
四天王寺大学教育学部准教授。専門は「幼児教育学」「家族関係学」。羽曳野市子ども・子育て会議(こども夢プラン推進委員会)副委員長を務める。三人の男の子の子育て真っ最中。「家族・働き方・社会を変える父親への子育て支援」(共編著)ミネルヴァ書房、「子ども家庭福祉論」(共著)晃洋書房、「家庭支援論」(共著)光生館などを執筆。

(編集:佐々木将史)

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