手ぶら登園保育コラム

保育園の運営に役立つ情報を発信

「子どもの安全をどう守る?②リスクマネジメントを現場に取り入れよう」——小崎恭弘先生の“こんなとき保育でどうする”

「子どもの安全をどう守る?②リスクマネジメントを現場に取り入れよう」——小崎恭弘先生の“こんなとき保育でどうする”

「こんなとき、子どもにどう接したらいいのかな…」

保育をしていくなかで、繰り返し目にするシチュエーションに戸惑ったり、とっさに子どもたちに言葉がかけられなかったりして、「これって大丈夫かな」「何て言えば良かったのかな」と悩まれる方は、少なくないでしょう。

この連載では、大阪教育大学・教育学部准教授の小崎恭弘先生に、現場で働く保育士からの、いろんな相談に乗っていただいています。

前回は『子どもの安全』をテーマに、リスクマネジメントの基本的な考え方を保育指針などから解説してもらいました。今回はそこから、「じゃあ具体的に現場でどうすればいいの?」という疑問に答えていただきます。

【第7回はこちら】
「子どもの安全をどう守る?①リスクマネジメントの考え方」——小崎恭弘先生の“こんなとき保育でどうする”

安全管理から「保育リスクマネジメント」へ

「園長や主任保育士から『もっとリスクマネジメントを意識するように』と言われますが、実際に現場でどんな視点を持てばいいか、今ひとつピンときません。どのようなことから取り組めば良いでしょうか?」

今年はコロナ禍の影響などもあり、リスク(事故、危険、災害等)に備えるための取り組みがいつも以上に多くの保育施設でなされています。前回の記事で解説したように、そうした子どもの安全を意識した理念や取り組みを「リスクマネジメント」と言います。

今回はそのリスクマネジメントの基本的な理解を進めていき、保育者の皆さんがどのように「危険」や「安全」と向き合い、何を大切に保育をしていけば良いかを考えていきたいと思います。

保育の本質の一つは、子どもを守りながら、同時に子どもの安全に対する力を育て、身につけさせていくことです。保育者だけがリスクを意識した取り組みができても、子どもの育ちとのしっかりとした連動性・関係性がなければ、それは単なる「安全管理」で終わってしまいます。

安全管理ももちろん大切なのですが、ここではもう一つステップアップした「保育リスクマネジメント」を意識した取り組みをできるようにしていきましょう。

事故やケガ、トラブルを振り返ろう

「リスクマネジメントをしよう!」と言われても、一体何からどう始めれば良いのかは、なかなかにわかりにくいものです。まずは今の保育の中での、安全に対する取り組みやデータを確認することから始めていきましょう。これは「現状の振り返りと理解」とも言うことができます。

みなさんの施設では、子どもの事故やケガの記録は残しておられるでしょうか?もしそのようなものがあれば、過去のデータをまとめてみましょう。できればこの1年間のものと、過去3年間のものを用意すると良いと思います。(可能なら、表計算のソフトなどを活用してデータ化してみてください)

事故やケガのデータは積み重なることにより、その数値に色々な意味を見つけることができます。施設の大きさや子どもの人数によって集め方は異なるでしょうが、できるだけ長い期間、データとしてしっかり残るようにしてほしいと思います。

そのようなデータが用意できたら次に、簡単で良いので、いくつかの視点で比較、検討をしてみてください。

  • 1年間でどの月のケガが一番多いのか
  • どの時間帯や場所でのケガが多いのか
  • 男児と女児、どちらのケガが多いのか
  • どの年齢のクラスの子どものケガが多いのか

つまり、「いつ」「どこで」「誰が」ケガをしているかということです。これらの傾向が掴めるだけでも、その後の対応や心構えが変わると思いませんか?

以下のデータはある自治体保育所で、実際に1年間のケガのデータをまとめたものです。いくつか特徴的なことがわかります。

ケガの件数(月別)
ケガの件数(年齢別)
ケガの件数(時間帯別)

例えば、

  • 10月にケガをすることが多い
  • 5歳児クラスにケガが多い
  • 10時台の活動時にケガが多い

そのようなものをデータから読み取ることで、対応を考えたり、計画や保育の取り組みの工夫を行ったりすることが可能です。また、10月の環境構成や保育者の人員の配置などからも、より安全への配慮ができるようになります。

大切なのは、これらのデータや数値がそれぞれの施設により大きく異なることです。どこの施設においても必ず一緒、などということはあり得ません。

だからこそ、みなさんの施設それぞれで、このような「自分たちだけのデータ」が役に立つのです。ぜひ早急に取り組んでほしいと思います。

施設のなかで「ヒヤリハット」を集めよう

次に行うのは、「ヒヤリハットデータ」を集めることです。

このヒヤリハットの取り組みは、既になされている施設も多いかもしれません。しかし、保育の業務が大変忙しい中で、なかなかにこれらを書くことができない、あるいは書かれていてもただの「事故報告書」になってしまっていることはないでしょうか?書式はあるが、誰も書かないものになってはいないでしょうか?

ヒヤリハットデータは、「インシデントデータ」とも言い、事故・トラブルが起きたことを書くものでなく、それに至らない事前の「どきっ」「ハッ」としたことや「ヒヤリ」としたことを書くものです。一歩間違えればケガや大きな事故になったこと、職員や保護者間の伝達ミスや伝え忘れ、保育者の配慮や対応で未然に防ぐことができたトラブルなどを捉えるものです。

施設のなかで「ヒヤリハット」を集めよう

ただし、「何も起きていない」という性格上、意識化されにくいものでもあります。実際、各園でもあまり熱心に取り組まれていないように感じます。

そうした場合は、1年間のうち、数日間や1週間だけでも良いので「ヒヤリハットウィーク」などを設定して、その期間だけでも集中して職員の皆さんで取り組んでみてください。これだけで意識や見方が変わります。

そして、その間のデータのみで良いので集計したり、傾向を確認したりするようにしてほしいと思います。みなさんそれぞれの保育施設において、傾向や特徴が見えてくるのではないでしようか?

このような傾向に合わせ、事故やケガ、トラブルの防止に向けての取り組みや確認を行うだけで、事故やケガへの構えや意識が変わります。そのことが、施設内で新たな事故などを防ぐ、大きな第一歩となるはずです。

1件の重大事故の背景には、300件のヒヤリハットがある

リスクマネジメントは「ケガ、事故、トラブル等を防ぐため」に行われるものです。当たり前のことですが、保育に関わる全ての人はこの事態を望んでいるわけではありません。できればそのようなものを防ぎたい、なくしたいと強く願っています。

しかし、残念ながらケガや事故は毎年のように保育施設で起きています。これらをダイレクトになくすことはできないのですが、「ヒヤリハット」(インシデント)をより意識し、環境を改善したり、保育者同士の関わりや声かけなどを行ったりして減らすことは可能でしょう。それこそが、リスクマネジメントの最大の取り組みなのです。

この考え方のベースにあるのは『ハインリッヒの法則』です。これは、

  • 1件の重大な災害事故の背景には、29件の軽度な災害事故がある
  • その背景には、さらに300件の傷害を伴わない事象(ヒヤリハット)が存在する
  • ヒヤリハットを減らしていくことが事故の軽減につながる

という理論です。

ハインリッヒの法則

保育の日常においても、軽微で軽度なトラブルや、事故には至らなかったヒヤリハット(インシデント)を見直し、減らすことによって、大きな事故を防いでいくことはできます。換言すると、これ以外に子どもたちを守ること、ケガを防ぐことは難しいということでもあるのです。

ぜひ保育に関わるみなさんはこの法則を知っていただき、日常の中でのヒヤリハットを意識しながら、事故をなくすための努力や工夫、職員間のコミュニケーションを大切にしてほしいと思います。そうした意識の変化と日々の積み重ねこそが、子どもを守る「保育リスクマネジメント」の基本であると言えるでしょう。

小崎恭弘
大阪教育大学教育学部准教授。1968年兵庫県生まれ。兵庫県西宮市公立保育所で初の男性保育士として12年間、保育に携わる。NHK Eテレ『すくすく子育て』をはじめ、テレビや新聞、雑誌など多方面で活躍中。年間通して全国で育児指南を披露する子育ての講演を行う。NPO法人ファザーリング・ジャパン顧問。『家族・働き方・社会を変える父親への子育て支援』『子どもの力を伸ばす!! じょうずな叱り方・ほめ方』など単著・共著多数。NECQA(保育士と保育の質に関する研究会)代表。

(編集:佐々木将史)

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