手ぶら登園保育コラム

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仕事と子育ての両立、悩む保護者に寄り添うには?——よくわかる『保護者対応』の進め方④

仕事と子育ての両立、悩む保護者に寄り添うには?——よくわかる『保護者対応』の進め方④

保育士の仕事の中でも、重要なものの一つである「保護者対応」。

子どもの発達、日々の関わり方の相談から、いざというときの具体的な家庭支援まで、現場ではさまざまなものが求められます。「こんな相談をされたけど、どうしよう…」と悩まれた経験のある方も多いことでしょう。

この連載では、保育現場で起きたさまざまなケースを取り上げながら、四天王寺大学教育学部・准教授の田辺昌吾先生と一緒に、対応する際のポイントを考えていきます。

第4回は、「仕事と子育て」のバランスについての相談です。保護者自身に関わる悩みの場合、どのような寄り添いをしていけばいいでしょうか?

【第3回はこちら】
園行事を通した保護者連携、どう進めたらいい?——よくわかる『保護者対応』の進め方③

深まる「仕事と子育ての両立」への悩み

保育士として働いていると、子どもの発達相談などとは別に、「保護者自身の悩み」にも向き合わなくてはいけない瞬間があると思います。

特に今回のテーマである「仕事と子育ての両立」は、保育所を利用する保護者にとっての普遍的な課題です。従来もさまざまなやりくりをしながら、なんとか子どもを育ててきた……という方は多くいたことでしょう。

加えてこの1年余りは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行によって、子育て家庭の置かれた状況がより厳しいものとなっています。人との接触を減らすことが求められ、気軽に出歩くことすらままならなくなる。誰も経験したことのない生活環境に、保護者自身のストレスはかつてないほど高まっていると言えます。

"深まる「仕事と子育ての両立」への悩み東京大学大学院教育学研究科附属発達保育実践政策学センター「新型コロナウイルス感染症流行に伴う乳幼児の成育環境の変化に関する緊急調査【速報版(結果の要点)vol.1. 】」より引用

これは2020年4~5月に実施された、就学前の子どもをもつ保護者を対象とした調査結果です。母親の約5割、父親の約3割が「1日の育児時間が平均5時間以上増えた」と回答しており、今まで以上にストレスフルな状態で生活を送る保護者の姿が浮かんできます。

同調査では、他にも以下のような結果が示されました。

  • 在宅ワークの保護者は出勤していた保護者に比べ、子育て環境の変化が「仕事の能率や成果に対してネガティブな影響がある」と回答する傾向が強かった
  • およそ7割が「十分な収入が得られるか心配している」と回答した
  • 半数以上の回答者が、精神的健康度が良好でない状態にあった

時には祖父母や友人など、他者の支えを得ながら生活をしてきた保護者にとっては、家族以外に頼りづらいコロナ禍の子育ては「孤育て」となる危険性が増します。また、これまでは職住分離だったことによってバランスを取れていたのに、テレワーク導入によって気持ちの切り替えがうまくできなくなってしまうこともあるでしょう。家族と過ごす時間が増え、肯定的な変化を感じている保護者もいるでしょうが、仕事の事情などによってそれが叶わない方も当然います。

実際、保育の現場でも「テレワークでこれまでの仕事と家庭生活のバランスが崩れて、ストレスから子どもにキツく当たってしまう……」「仕事がうまくいかなくなって、夫婦の会話がぎくしゃくしていて……」などの相談を受けていると聞きます。

こういった悩みを打ち明けられたとき、保育士として保護者をどう支えていけばいいでしょうか。

“なにに困っているのか?”を知る

さまざまな悩みや葛藤を抱える保護者に対し、専門性を有する職員が適切な援助を行う。これは保育指針にも明記されているように、「保育所の特性を生かした支援」と言えます。

ですが、相談を受けたときは具体的な方法を考えるよりも先に、「保護者のおかれている状況の大変さや気持ち」を受け止め、共感することが何より重要です。

特にコロナ禍のような事態が絡む悩みでは、「当然だったことが当然ではない社会になっている」「こちらが思う以上に不安や負担が増している保護者がたくさんいる」という状況を、保育士がきちんと理解しておく必要があります。

“なにに困っているのか?”を知る

その上で、それぞれの保護者にとって「なにがもっとも懸案になっているのか?」(主訴)を、いっしょに考えていくことが大切です。保護者自身が悩みの内容をはっきりと自覚できていないまま、「とにかく大変、しんどい」と訴えている場合もあります。コミュニケーションを取るなかで、悩みごとの中心や背景を整理し、そのことを保護者が自覚できるように促していきましょう。

例えば、先に挙げた「仕事がうまくいかなくなって、夫婦の会話がぎくしゃくする」という悩みであっても、「経済的な不安定さが心配で、気持ちの安らぐことがない」「パートナーにもっと自分の話を聞いてほしい」「夫婦間のコミュニケーション不足が子どもに影響するかが心配」など、保護者によって主訴は異なります。

まずは受容・共感を通して、そうした一人ひとりの訴えをクリアにしていく。悩みの本質が見えてくれば、適切な支援を展開していくこともできます。

経済的支援が必要な場合は、関連する情報を提供したり関係機関につないだり。夫婦間のコミュニケーションが課題なら、それを促す働きかけを園側で考えたり。子どもへの影響が懸念であれば、園ではいつも以上に丁寧にその子とかかわるようにし、変化が感じられればすぐに共有すると伝えるなど、保護者が少しでも安心できる方法を提案してみましょう。

「日常」の接点から、尽きない葛藤に寄り添いを

上で触れた「夫婦間の関係性」は、実はコロナ禍を問わず、仕事と子育てを両立するための大事な要素です。現在の日本では子育ての負担が圧倒的に母親に偏っていることを考えると、保育所が「母親だけでなく父親にも働きかける」ことがとても大切だと言えます。

だからこそ、保育士は日常的なつながり(送迎時、連絡帳、おたよりなど)や行事の機会などに、母親だけでなく父親も含めて関係を築いておくようにしましょう。父親の子育てに対する考えや行動にポジティブな変化を促すことができれば、パートナーシップの形成にもつなげやすくなります。

これは、保護者と「日常的に」接点があり、子どもの専門家である保育士が果たせる役割の大きさを示すものでもあります。前3回のコラムでも述べてきたとおり、保育所と保護者が「子どもの育ちを日々共有すること」はとても重要なのです。

「日常」の接点から、尽きない葛藤に寄り添いを

他の相談シーンでも、それは同様です。例えば「仕事の忙しさから子どもと関わる時間が短くなってしまった」と悩む保護者がいたとしましょう。

しかし、子どもの成長・発達は、単純な時間的な長さにのみ左右されるわけではなく、時間は短かったとしても愛情をもって子どもとしっかり向き合うことで促されます。そのことを前提として伝え、園生活のなかでの子どもの成長を保護者と共有できれば、保護者は安心できるはずです。逆に、わが子の育ちを感じられないと、「その原因は自分たちにあるかも」と悩んでしまうことになります。

コロナ禍以前から、「仕事と子育ての両立」においては保護者の悩みは尽きず、葛藤の連続なのです。このことを踏まえ、保護者がわが子の「育ち」を実感できるよう、日常的に寄り添っていくことを心がけてほしいと思います。

子どもの最善の利益のために、保護者を信じる

保育士が保護者を支援するのは、なんのためでしょうか?言うまでもなく、「子どもの最善の利益」のためです。

保護者の生活、仕事と子育ての両立が安定することは、子どもの健やかな育ちには欠かせません。実際、多くの保護者はわが子のより良い生活のために、仕事と子育てに日々奮闘しています。保育士として、その姿に畏敬の念を抱くこともたくさんあるはずです。

一方で、先の例で言えば連日のように長時間保育を利用する子どもを見て、「もう少し家で過ごす時間をつくってほしい」と思うこともあるでしょう。「本当に子どものことを考えてる?」と思ってしまう保護者と出会うこともあるかもしれません。

ですが、そんなときにこそ心掛けてほしいことがあります。保護者の姿をできるだけ肯定的に捉えることです。

保護者自身も、親としての成長途上にあります。みなさんが子どもに対して、一見問題のように思える行動も「長期的な視点から育ちと捉える」ように、まずは相手を理解しようとするまなざしを保護者にも向けてほしいと思います。一人で難しいときは、他の保育士とまなざしを共有することで、新たな見方ができないか考えてみましょう。

「お母さん・お父さん、もっと頑張って」ではなく、「いつも頑張っていますね。これからもいっしょに頑張っていきましょう」。

そんなメッセージが伝わるような働きかけを、ぜひ保育士として心がけてみてほしいと思います。

田辺昌吾
四天王寺大学教育学部准教授。専門は「幼児教育学」「家族関係学」。羽曳野市子ども・子育て会議(こども夢プラン推進委員会)副委員長を務める。三人の男の子の子育て真っ最中。「家族・働き方・社会を変える父親への子育て支援」(共編著)ミネルヴァ書房、「子ども家庭福祉論」(共著)晃洋書房、「家庭支援論」(共著)光生館などを執筆。

(編集:佐々木将史)

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