手ぶら登園保育コラム

保育園の運営に役立つ情報を発信

「インクルーシブ」な環境で、“違い”を超えて育つ子どもたち——オリーブ守山保育園(1/2)

保育や教育の現場で、今注目されている言葉の一つに「インクルーシブ」があります。

すべての子どもが、障害や国籍などに応じた支援(医療的なケア、言葉のケアなど)を受けながら、共に育つ。それぞれの“違い”をみんなが受け入れ、お互いに影響を受けたり与えたりしながら、一緒に成長していくことを目指す考え方です。

2018年に開園した『オリーブ守山保育園』(滋賀県守山市)は、そんなインクルーシブを実践する施設の一つ。保育士と看護師が手を取り合いながら、医療的ケアの必要な子どもたちと、そうでない子どもたちが「当たり前のように」同じ空間で遊び、育っていく保育園です。

実際にどんな保育をしているのか。そこで育つ子どもたちは、日々どのような姿を見せてくれているのか。園長を務める長谷川久子先生にお聞きしました。

オリーブ守山保育園の「インクルーシブ保育」

オリーブ守山保育園は、訪問看護事業を営む『びわこナーシング』を母体とする、企業主導型の保育園です。0歳児から4歳児まで25人(2020年11月時点)の保育をしながら、同じ建物の2階部分で、病児6人・病後児3人定員の「病児病後児保育」も行なっています。

オリーブの理念『オリーブ守山保育園』公式サイトの「オリーブの理念」より
『オリーブ守山保育園』の外観『オリーブ守山保育園』の外観

この園の中で、現在5人の医療的ケア児たちが、ケアを必要としない子どもたちと「一緒に過ごしている」と長谷川先生は話します。

長谷川「医療的ケア児とは、例えば口からの食事ができないので、鼻や胃ろう、腸ろうから直接栄養物を摂っていたり、呼吸器官に障害があるため、気管に挿入するカニューレ(管)から痰を吸入したり、常に酸素の吸入を必要としていたりする子どもたちです。

また、そこに重度の『心身障害』(肢体不自由と知的障害などが重複した状態)が加わった子どもたちなども、市の内外から通ってきてくれています」

『オリーブ守山保育園』園長の長谷川久子先生(Zoom取材中の様子)『オリーブ守山保育園』園長の長谷川久子先生(Zoom取材中の様子)

オリーブ守山保育園では、年齢ごとのクラス分けはされていません。全員で取り組む異年齢児保育をベースに、より発達段階に合わせた年齢別の保育、医療的ケアの子どもたちだけの保育など、柔軟に組み合わせています。

長谷川「異年齢児保育では、医療的なケアを必要とする子どもも必要としない子どもも、基本は同じ場所で同じ時間を過ごします。できることは一人ひとり違いますが、担当の保育士を中心に、それぞれの子どもに合ったアプローチを考えるんです。

例えば製作遊びの場合、発達やケアの内容に応じて扱う道具やその使い方が変わります。得手不得手も全員違うので、それに合わせた支援が必要になるんですね。

そうやってみんなで何かをつくると、『ああ、これはこの子だな』と思えるような、楽しいものができあがっていく。仮に同じものをつくっても、アプローチや見え方の違いが、異なる姿として作品に表れてきます」

オリーブ守山保育園の「インクルーシブ保育」

“違い”を受け入れ、一緒に育つ子どもたち

オリーブ守山保育園には、身体的には異なる特徴を持つ子ども同士が、「当たり前のようにそこにいて、当たり前のように一緒に遊んでいる」日常があるといいます。

長谷川「酸素を常に必要とする子どもの酸素チューブを、他の小さな子どもが噛んだり引っ張ったり、ということはありません。

もちろんはじめは、『これ何だろう?』と興味を示します。けれども、『これは◯◯くんにとってとても大事なものだから、触っちゃいけないよ』って伝えるとちゃんと子どもたちは理解し、年齢の小さい子たちにも教えていくんですね。

すると、そこにチューブがあるのはもう当たり前になります。栄養チューブから看護師が注入をしている姿を見て、『今◯◯くんはごはん食べてるんだね』と話してくれたりすることもあります」

“違い”を受け入れ、一緒に育つ子どもたち

このような体験を幼児期からしておくことで、子どもたちは自然に自分との“違い”を受け入れ、反応を返していきます。それは、何も医療的ケアを必要としない子どもに限ったことではありません。

長谷川先生は他の事例として、ある医療的ケア児とケアを必要としない1歳児との、何気ない関わりを紹介します。

長谷川「私と1歳の女の子が遊んでいる横で、それまでお昼寝をしていた医療的ケア児の男の子が起きたことがありました。そこで女の子が『おはよ、おめめさめた?』って何度も話しかけると、男の子もニコッと笑って、自分の表情に合わせて手を一生懸命動かして応えていたんですね。2人の自然なやりとりを見たときに、一緒に過ごすってすごいことだなと思ったんです」

“違い”を受け入れ、一緒に育つ子どもたち2

また、オリーブ守山保育園には、吸入などの医療的ケアは必要だけれども、それ以外は他の子どもたちと同様に活動できる子どももいます。

「歩ける医療的ケア児」とも呼ばれるこの子どもたちは、気管カニューレを常時身につけて部屋中を歩きまわり、他の子どもとほとんど同じように過ごしているそうです。

長谷川「年齢の大きい子たちは、異年齢保育の時間になると『集まろうよ』『次こうするんだよね』なんて言って、当たり前のように年齢の小さい他の子をリードするんですよね。

そういう姿を見ると、みんなで一緒に過ごすことをやってきて、本当に良かったなと。来年の春、仮にこの子たちがもっと大きな認可の保育園に行くことになっても、安心して送り出せるなって思うんです」

互いの役割の中で「どうしたらできるか」考える

医療的ケアの子どもとケアを必要とない子どもが、「境目なく」共に育っていく。園を訪れる見学者の多くは、まず何よりもここに驚くといいます。

そして次に、「どうすればこんな保育ができるんだろう」と疑問が生まれます。障害児保育に携わった経験がない保育者であれば、なおさら戸惑うことも多いはずです。

長谷川「2年半前に開園したとき、ほとんどの職員は医療的ケアの必要な子どもの保育経験がないところからスタートしました。そのため、やはり初めは『抱く方法すら分からない』『自分が関わることで子どもの状態が悪くなってしまわないか』と心配しながら、遠目に見守ることも多かったように思います。

でも、看護師もそばにいる中で、自分で抱いてみたり、ミルクを飲ませたりなどの経験を積み重ねることによって、だんだんその子どもに合った支援の仕方がわかっていくんですね」

互いの役割の中で「どうしたらできるか」考える

仮に発作などが起きた場合も、看護師が処置をする横で他の子どもたちに「◯◯くんが少ししんどくなっちゃったから、違うお部屋に行こうか」と誘導するなど、一人ひとりがその役割を果たしながら、日々保育を行なっているそうです。

また、滋賀県の『喀痰吸引等第三号研修』を受講することで、特定の子どもに対して保育士が吸引できるなど、連携をよりスムーズにするための支援体制も整えられていました。

長谷川「もちろん、人工呼吸器の操作など看護師にしかできないこともあります。けれども、それ以外の食や排泄といった生活での関わりは、他の子どもたちと同じように保育として実践しています。

逆に、保育士でないと不可能な仕事は、子どもたち一人ずつの保育計画を立てることです。医療的ケア児に関しては看護師が『看護に関する目標』の部分を考えますが、それを含めて最終的に月案や日案をつくっていくのは、保育士にしかできません」

互いの役割の中で「どうしたらできるか」考える2

全国的にはまだ事例の少ない、インクルーシブな保育のかたち。現場で働く保育者に必要なものを尋ねると、長谷川先生は「どうすればできるか、から考えていくこと」だと指摘します。

長谷川「経験のある方ほど、実現の難しさや保護者の反応などを考えてしまって、避けたくなってしまうことがあると思います。でも、目の前の子どもを見て『やった方がいいな』『やりたいな』と感じるのであれば、その気持ちを大事にしてほしい。

『これは無理だ』ではなく『じゃあ、できるために何をどうクリアすればいいんだろう』という視点を、発想のスタートにしてもらえたらいいなと考えています」

<続く後編では、びわこナーシング代表・角野めぐみさんも交えて、インクルーシブ保育が保護者や地域に与える影響を一緒に考えていきます>

(取材・執筆/佐々木将史、写真提供/オリーブ守山保育園)

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