手ぶら登園保育コラム

保育園の運営に役立つ情報を発信

医療的ケア児も「当たり前」な社会へ、保育士ができること——オリーブ守山保育園(2/2)

医療的ケアが必要な子どもも、そうでない子どもも、分け隔てなく日々を過ごす『オリーブ守山保育園』。

「当たり前のようにそこにいて、当たり前のように一緒に遊んでいる」

そんなインクルーシブな環境で、子どもたちがどんな育ちをしているのか、前回は園長の長谷川久子先生にお話を伺いました。

ここからは、運営法人『びわこナーシング』の代表であり、オリーブ守山保育園の発起人である角野めぐみさんを交えて、そうした保育のかたちが周囲の人や地域にどんな影響を与えていくのかお聞きしていきます。

「誰もが普通に生活できる」場所を目指して

滋賀県近江八幡市で『訪問看護ステーション オリーブ』を運営する角野さん。自らも看護師としてさまざまな家庭を訪れていくなか、一人の医療的ケアの必要な赤ちゃんに出会ったことが、オリーブ守山保育園のきっかけになったと話します。

角野「その赤ちゃんのお母さんは、育休期間が明けたら仕事に復帰しようと考えておられました。でも、いざ保育園に預けることを考えたときに、受け入れてくれる施設がどこにもないとわかったんです。

今は気管切開をしていても、カニューレをつけて元気に歩き回れる子どもさんだっています。その子たちのように呼吸器以外が普通に成長発達をしていても、通える園はない。そう聞いて最初すごく驚いたんですね」

『びわこナーシング』代表の角野めぐみさん(Zoom取材中の様子)『びわこナーシング』代表の角野めぐみさん(Zoom取材中の様子)

近年では発達障害やグレーゾーンへの理解も少しずつ進み、保育現場でも柔軟な対応が求められています。しかし、それが「医療」を必要とするものになった瞬間、子どもたちの受け皿がいきなり消えてしまう。

気づいた角野さんは、企業主導型保育の仕組みを利用して、自ら保育園を立ち上げることにしました。

このときこだわったのが、医療的ケア児だけを対象とした施設に「しない」で、インクルーシブな保育を行うことです。

角野「それぞれの地域の中で、誰もが普通に生活できるんですよ、と言える場所にしたかったんですね。なので、医療的ケアが必要な子どもとそうでない子どもを“境目なし”に預かれる点を、最も重視しました。

保育士さんの知り合いはいなかったので不安はありましたが、実際に『園をやります』と発信すると、『こんなところで働きたかったんです』と何人も手を挙げてくれて。インクルーシブに関心を持ってくれた方の支えがあったから、今この保育園ができているんだなと感じています」

「誰もが普通に生活できる」場所を目指して

ただ“一緒にいる”ことが、人を変えていく

実際に保育がスタートしてから、“違い”を自然に受け入れていく子どもたちの姿(前回記事を参照)を見るたびに、「一緒に育つ」環境の大切さを何度も感じたと語る角野さん。

次第に、子ども同士が関わりを持ち始める時期についても、一つの考えを持つようになりました。

角野「オリーブ守山保育園の2階には病児・病後児保育を併設しているんですが、ここの園児だけではなく、他の園に通う子どもたちも受け入れています。医療的ケアの子どもも、具合が悪ければ受け入れます。

そこでチューブをつけた子どものケアを職員がしているとき、3歳4歳を超えた他園の医療的ケアが必要ない子どもたちは、横で見ていてすごく興味があるのに、何をしているのか聞けないんですね。何かが違うんだけど、どう捉えて言葉にしていいかわからない。

でも、これが3歳児くらいまでだと、『何してるの』って素直に聞きに来れるんです。そんな姿を見ていると、より年齢の小さな時期から関わりあうことって、実はすごく大事なんじゃないかなと思うんですね」

ただ“一緒にいる”ことが、人を変えていく

共にいることは、大人の側にも大きな影響を与えます。園長の長谷川先生は、オリーブ守山保育園をあえて選んだという、ある保護者の言葉を教えてくれました。

長谷川「『インクルーシブな環境で育っていけば、人の違いを子どもは自然に受け入れていくんじゃないか。誰かを変な目で見ることをせず、当たり前に人間関係を築いてくれるのではないか』。

この方はそう開園当初に言って、今もうちにお子さんを通わせてくださっています。で、その保護者と先日、来年度どうするか話す機会がありました。

4歳5歳になったときのことを考え、もう少し大きな認可保育園に申請はしたものの、『でもね先生、私はここで構わないです。ここに来れて良かったです』と言ってくださったんです。

『子どもが家で、医療的ケアのある友達のことも他の子どものことも、同じように話すんです。お迎えに来たときも、自然に関わりあって遊んでいる姿を見ます。それを見るたびに、ここに入れて良かったなって、いつも実感するんです』って。すごくうれしいですよね」

『オリーブ守山保育園』園長の長谷川久子先生『オリーブ守山保育園』園長の長谷川久子先生

もちろん、すべての保護者がそうした視点で園を選ぶわけではありません。待機児童の問題も根深い中で、偶然この園に出会った方もいるでしょう。

それでも園で過ごす時間が増えるうちに、保護者が医療的ケア児にも声をかけたり、成長を応援したりすることが出てくるといいます。長谷川先生は、今年10月に行われた運動会のエピソードを紹介してくれました。

長谷川「障害物競争のとき、飛んだり跳ねたりできない子どものために、仰向けで体を滑らせることができるよう、保育士が手作りのローラーを用意したんです。競技中、それに乗った医療的ケアの子どもがすーっと滑っていったときに、もうぜんぶの保護者から『うおおお!』って、ものすごい歓声が上がって。

次の朝と夕方、その子のご両親は『ここに来て本当に良かったです』『何度も何度も動画を見ました』『他のお父さんお母さんが、ああやって他の子どもたちと一緒に見てくださるのが本当にうれしかったです』と涙を浮かべながら、交互に言葉をかけてくださいました。

子どもたちの力を借りながら、こんなふうに保護者の皆さん自身の関わり方や思いも変化していくことが、私はとてもうれしいなと思います」

ただ“一緒にいる”ことが、人を変えていく2

地域で「当たり前に」育っていける場所を広げたい

子ども同士はもちろん、周囲の人たちにもさまざまな影響を与えてきた、オリーブ守山保育園の実践。「インクルーシブ保育」を前面に掲げる保育園はまだ多くはありませんが、その助成に乗り出す自治体も最近は増えてきました。

この中で少しずつ生まれている横のつながりを、今後はもっと強くしていきたいとお2人は話します。

角野「京都市さんなどでは、独自の取り組みからインクルーシブを目指す保育園が、実際にいくつか出てきておられます。

そうした園からうちの園に見学に来ていただいたり、こちらからも見学に行ったり。顔の見える関係性が増えていくと、現場での悩みも相談できるし、お互いにアイデアを交換しあうこともできるんです。

もちろん今の認可園の中で、1人2人と医療的ケアの必要な子どもを保育してくれている方もたくさんいると思います。その方々を含めて、保育士さん同士のネットワークをつくっていきたいなと考えていますね」

地域で「当たり前に」育っていける場所を広げたい

長谷川「他園の先生方にお話を聞くなかで感じるのは、自分たちでハードルを上げておられる場合がすごく多いのではないか、ということです。

例えば『こういう設備がないと預かれませんよね』といった相談をよく受けます。そこで、うちの看護師が『いえ、うちには救急箱しかありませんよ』と答えると、すごく驚かれたりするんですね。実際に見たことがなく、イメージが湧きづらいんだと思います。

なので、うちにもっと見に来ていただいたり、職員同士が気軽に学びあえたりする環境ができたらいいなと考えていますね」

その一環として、グループのNPO法人『オリーブの実』では、インクルーシブ保育における日々の学びや工夫を他園と共有するための、具体的なプログラムが行われています。

そこには角野さんや長谷川園長だけでなく、オリーブ守山保育園の現場に立つ方々が講師となって、医療的ケア児の保育について話す場も設けられているそうです。

互いの役割の中で「どうしたらできるか」考える3

長谷川「インクルーシブな環境で保育を行い、医療的ケアの子どもたちと日々関われることで、保育士としてはさまざまな学びや、普通では身につけられないスキルを得られると思うんです。園の職員を見ていても、確実に実践できています。

ただ、それらを他の園の先生方の前で話すには、少し自信を持ち切れないのかなと思うことはありますね。

ここがまだ『珍しい』と言っていただける園である以上、今いる方にはぜひ、インクルーシブ保育でリーダーシップを取れる存在になってほしいなと思います」

オリーブ守山保育園を軸に、インクルーシブ保育をもっと広げたい。そこに関わる保育者も、通うことができる子どもたちももっと増やしたい。この想いに角野さんも頷きます。

角野「今働いている方には、周りの保育士さんにこの試行錯誤を伝えてほしいし、またいずれ他の園に移ることがあっても、『こういう保育があるんだよ』ってことを広めていただきたいんです。

実はうちの園には、市外から何人も医療的ケアの必要な子どもたちが来てくれています。中には毎日片道40〜50分かけて通っている子も。そういう子どもたちにとって、本当は『それぞれの地域の保育園で』同じように過ごせることが一番いいと思うんですね。

それには、地域の中でもっとインクルーシブな見方が育たないといけない。保育に対しても過剰にハードルを高く考えることなく、医療的ケアの必要な子どももそうでない子どもも、『当たり前に』育っていける園が増えてほしいなと考えています」

(取材・執筆/佐々木将史、写真提供/オリーブ守山保育園)

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