インタビュー

保育者の対話から「導きと見守り」のあり方を考える——『社会福祉法人 種の会』(2/2)

保育者の対話から「導きと見守り」のあり方を考える——『社会福祉法人 種の会』(2/2)

子どもの主体的な行動は、環境と保育者の関わりによって「引き出される」。

前回の記事では、関西・関東で保育施設を営む『社会福祉法人 種の会』の片山喜章先生に、『コーナー・ゾーン遊び』『サーキット遊び』などの事例を通して、主体性の捉え方を教えていただきました。

コーナー遊び、サーキット遊びに見る“主体性”の引き出し方——『社会福祉法人 種の会』(1/2)

後編では、そこに向ける保育者のまなざしについて解説いただきます。

「子ども中心」の対義語にも扱われる「保育者主導」を、私たちはどう考えていけばいいのか……ヒントは、“導き”と“見守り”の相補関係にありました。

「子ども主体か、保育者主導か」では語れないもの

近年、教育のあり方が大きく変化するなかで、学びのベースに“主体性”を置くことの重要性がますます意識されるようになりました。しかし、いざ実践となると試行錯誤が続いているのも事実です。

種の会の理事長を務める片山先生は、“主体性”の言葉が広まっている今だからこそ、その捉え方を改めて考えてほしいと訴えます。

『社会福祉法人 種の会』公式ページより『社会福祉法人 種の会』公式ページより

片山「『子どもの主体性を尊重する』こと自体は、ベテランから新人の方まで、多くの保育者が同意するところでしょう。ですが、実際にはその言葉の使われ方はまちまちです。

よく『この“活動”は主体性を育むものか?そうでないか?』と聞かれることがありますが、活動形態だけで単純に判断することはできません。サーキット遊びなどの事例でお伝えしたように、私たちは『環境設定の仕方』と『保育者の関わり方』について常に検討しています。

コーナー・ゾーン遊びのなかでも、遊びが見つからず子どもがポツンとしてしまうこともありますし、反対に一斉型のリトミックや描画活動において、個々の主体性や創意が発揮されている場面に出くわすこともあるんです」

『社会福祉法人 種の会』理事長の片山喜章先生(Zoom取材中の様子)『社会福祉法人 種の会』理事長の片山喜章先生(Zoom取材中の様子)

これと同様に、昨今「子ども中心の保育」と対比で扱われることの多い「保育者主導」も、そう単純に語ることはできない言葉だと片山先生は指摘します。

片山「『子ども主体か、保育者主導か』という問いを二項対立で考えてはいけません。そこには、“見守り”と“導き”という二つの要素が、互いに補い合う形で関わりあっているんです。

例えば、ある園では毎週1回、動物園に行っています。そのとき、保育者が意図をもって『今日はぞうさんが何を食べているか見に行こうか』と提案(導き)することもあれば、子どもたち自身が『餌は何だったなのか』『それはどこから、どうやって運ばれるのか』と飼育員さんに尋ねることもあります」

動物園に行く子どもたち

片山「ここでの保育者の関わりについて、どこまでが導きでどこからが見守りか、説明することはできません。私は職員に『見守りのない導きはなく、導きのない見守りもない』と伝えています。どちらも含まれた『相補の関係性』が大切であり、はっきりした境目が見えるわけではないんですね」

子どもの「七色性」「可塑性」を感じる

昨今の保育では“見守り”の重要性が語られるシーンが増えていますが、「相補」であるならば、“導き”のあり方も同じようにきちんと考える必要があります。

片山「子どもたちへの直接的な指導が求められる場面はありますし、必要です。“とりあえずこうやってみて”と指示することだって、時にはあると思います。

例えば縄跳びや逆上がりも、友達の姿を見て学ぶ子、必死に自分ひとりでやろうとする子に対しては見守る。したいけれどできない子には、“こんなふうにすればできるよ”と保育者が経験的に会得している方法を伝えたり、補助したりする。それらもすべて、保育者のスキルだと思います」

保育士と子どもたち

「子どもの主体性」「子どもが自分で考える」などと一言で片付けるのではなく、その子によって関わり方が違っていい。ひとりの子どもに対しても、時々の状況や取り組んでいる対象によって違っていいと片山先生は話します。

そこで問われているのは、子どもに対する大人の提案力です。

片山「保育者がコーナー・ゾーン遊びの特別日をつくったり、サーキットのコースを考えたり。もう少し広げて考えると、絵本や教材もそうです。絵本は絵本作家が描いたものですし、ボードゲームにもそれぞれに作者がきちんといて、意図をもって制作しています。

こういった方々の“導き”も、私は子どもの主体性を引き出す大事な要素だと捉えているんです。“導き”とはある意味、保育者の創意や主体性と言ってもいいかもしれませんね」

保育園の棚

加えて、保育者が子ども自身の力をもっと信じることも大切だといいます。片山先生は、大きく二つの性質を示してくれました。

一つは「可塑(かそ)性」です。可塑性とは、力が加わっても元の形に復元する性質を表します。自分にとって多少負荷がかかる体験であっても、それを受け止め克服するたくましさが子どもにはあるというのです。

片山「一斉型の活動で、発表会の練習やちょっとキツいお稽古などをすることがありますよね。保育を原理主義的に見てしまうと、こういった活動は一切ダメに思えてしまいますが、私は子どもが保育者の熱をどれだけ感じ取っているか、またそれを『1日何分しているか?』という時間で見るようにしています。

少し厳しい活動でも、仮に1日10分であれば健全な育成を妨げない。むしろそうした体験をすることで、子どものなかに“起き上がりこぼし”のような可塑性が育まれるようにも感じます」

難易度が高い運動はルートを複数つくる

片山「もう一つは子どもの『七色性』です。七色性とは、多様な子どもがいるという意味ではなく、一人ひとりの子どものなかに七色があるということですね。

私たちは常に、子どもの内側に潜むたくさんの色を『どうすれば引き出せるだろうか』と考えなくてはいけません。子どもという存在は奥深く、まだまだ未知な部分もある。さまざまな活動を通じ、保育者がその時々で試行錯誤を続けることが重要だと考えています」

悪い意味での「保育者主導(都合)」を避ける対話の習慣づくり

もちろん、保育者が「良い」と思った関わりが、いつも子どもにとって良い“導き”につながるとは限りません。質を担保させるために、種の会ではいくつもの視点を外から取り入れるようにしています。

例えばコーナー・ゾーン遊びについては、『ECERS』(保育環境評価スケール:Early Childhood Environment Rating Scale)を導入。アメリカで開発された集団保育の質を測るものさしで、世界20カ国以上で使用されています。

『保育環境評価スケール研究会』公式ページより保育環境評価スケール研究会』公式ページより

ここには、「積み木コーナーには、木製の人形や車などを20個以上用意しておかなければならない」といった細かな指標が示されています。実際にその通り環境を整えてみると、家ができて町が生まれて……と遊びが膨らんでいくのだそうです。

片山「ECERSに則った環境評価を、年に2回ほど法人内で実施しています。関西圏、関東圏それぞれで職員同士が行き来して、互いにチェックをし合うんです。

このとき、評価スコアの解釈をめぐったミーティングも行います。例えば『ひとりでくつろげるコーナーが2か所ある』といった項目に対し、『壁に向かって座れる場所があれば、ひとりでいる場にならないか?』などと議論をしていくのです。ここでの保育者間の対話が大切で、対話の量と深まりが、集団の力量を上げていくと実感しています」

おもちゃで遊ぶ子ども

保育者同士が多少ライバル意識をもちながら対話し合うことが、“悪い意味での保育者主導”を避けるために大切だと語る片山先生。もちろんライバルといっても、「うちの園児は跳び箱が8段跳べる」「いや10段跳べる」といった張り合いではありません。

素材や環境の工夫が子どもの主体性にどのくらいつながっているか、それを学び合える関係性が重要だといいます。

片山「法人の施設数園で、同じ年齢を担任する保育者や栄養士同士が集まる場をつくるなど、交流の網を縦横無尽に広げています。また、法人内の同僚にとどまらず、公開保育を積極的に行ったり、こちらからも他園に足を運んだりもしていますね。このような仕掛けや仕組みづくりが、保育者の主体性を底上げすると考えています。

さらに、運動遊びの専門的な知見についても『株式会社ウエルネス』(片山先生が自ら設立)と連携したり、ある園では子どもたちに委員会をつくってもらって、大人が考えないようなサーキット運動のアイデアを出してもらったり。園の保育者だけで内に閉じないことを心がけています」

保育者自身が変わっていける環境づくり

子どもの主体性を引き出すために、園を取り巻く環境の「風通しを良く」し、保育者自身の主体性も促していく種の会。実は活動以外でも、さまざまな仕組みを取り入れています。

例えば同僚性を高める一環として、メンター・メンティー制度(先輩保育者による相談支援)を導入し、効果を上げているそう。職員会議では、共有されたテーマに対し一人ひとりが事前に書き込むことにもなっています。誰がどんな意見を持っているかを、誰でも把握できるようにしているのです。

事前に共有される会議資料の一部事前に共有される会議資料の一部

片山「もちろん、こういった仕組みを取り入れるだけではダメで、絶えず更新することも大切です。どれだけ良くできたシステムも、時間とともに必ず形骸化していきますから。

会議の事前書き込みルールも、慣れてくると『書いておけばいい』となりがちです。なので、最近は逆に当日その場で考えてもらい、緊張感が高まるようにすることもあります。互いに尊重し合い、時に右往左往し合うことを含めて、同僚性を育んでいけたらと思いますね」

また、数年前から積極的に取り組んでいるICTの活用では、「使える」「使えない」といった二軸で考えるのではなく、「どうやったらより保育に生かせるか」をみんなで考えています。

指導計画が自動で作成されるようなツールも、導入するだけでは「保育者が考えなくなる」場合がありますが、作成されるものを叩き台に学習していくプロセスがあれば、「より活動を活性化させることもできる」と片山先生。

社会がどんどん変化していくなかで、保育のあり方、教育の内容、運営の仕組み……あらゆることを変え続けることが重要だとおっしゃいます。

『社会福祉法人 種の会』理事長の片山喜章先生(Zoom取材中の様子)

片山「現代は、色んな部分で“人”としての能力が上がっているようにも感じます。若い方々を見ていると、スマホと手がもう一体化して、第二の脳のようになっているなと思うことがありますね。小さな機材と一部屋があれば、自分の音楽がつくれて、誰でも世界に発信できる……なんてことも昔では考えられませんでした。

そういった時代に、保育の専門性として求められるものは何なのか。多種多様、そして多岐に渡る刺激を受けている子どもたちに、どういった導きと見守りのあり方がいいのか。私も日々悩んでいますが、先生方と一緒に戸惑ったり考えあぐねたりしながら、次の社会を生んでいけたらいいなと思っています」

(取材・執筆/佐々木将史、写真提供/社会福祉法人 種の会)

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