手ぶら登園保育コラム

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コロナ禍の保育で見えた「主体性×ICT」の可能性——『フレーベル西が丘みらい園』(1/2)

コロナ禍の保育で見えた「主体性×ICT」の可能性——『フレーベル西が丘みらい園』(1/2)

1年以上に渡るコロナ禍で、さまざまな判断を迫られてきた保育の現場。地域によっても状況が異なるなか、各園では「今までにない取り組み」が生まれてきています。

今回、お話を伺ったのは『フレーベル西が丘みらい園』(東京都北区)。「一人ひとりを大切に」していくこの園では、大事にしてきた保育の軸は変えずに、ICTを活用した新しい実践をいくつも進めているそうです。

コロナ禍で何を変えて、何を変えなかったのか。今の現場でどんなことができるのか。

「保育」を捉え直すヒントを、園長の柴田直美先生、幼児クラスを担当する片平祐先生にお聞きしました。

「一人ひとりを大切に」西が丘みらい園の保育

『フレーベル西が丘みらい園』施設紹介のページより『フレーベル西が丘みらい園』施設紹介のページより

フレーベル西が丘みらい園は、この春に開設4年目を迎えた、定員60名の認可保育園です。

保育理念に掲げるのは『一人ひとりが大切にされる園』。誰もが安心・安全に生活できる環境を整えたうえで、子どもの主体性に本気で寄り添うにはどうすればいいだろうかと、日々さまざまな実践を積み重ねています。

園の姿勢がよく表れている取り組みのひとつが、毎日行われる『朝のつどい』。幼児クラス(3・4・5歳児)の異年齢グループで主に行われ、その日の活動内容が子どもたちとの相談のなかで決まっていきます。

「一人ひとりを大切に」西が丘みらい園の保育

保育士も事前にある程度の計画を持って臨みますが、その場で子どもから出てくる意見をできるだけ聞き取り、活動を柔軟に変えていく。開園時から続くこの集まりを、柴田先生(今年度より園長に就任)は「保育の幅を広げてくれる大切な取り組み」だと話します。

柴田「例えば天気のすごくいい日に、保育士が『今日はお外に出かけようと思うんだけど……』と話を振ったとします。すると、前日の夕方にやり始めたことを続けたい子が、『行きたくない!』と言い出したりするんですね。

そうやって子どもたちが『自分の意見を言えること』を、この園ではとても大事にしています。他の子が全員お散歩に行くなか、子どもがひとり残って黙々と活動を続ける場合も実際にあります。

自分のやりたい活動が何か、どうすればそれができるか、保育士と子どもたちがその場その場で考えていくんです」

『フレーベル西が丘みらい園』園長の柴田直美先生(Zoom取材中の様子)『フレーベル西が丘みらい園』園長の柴田直美先生(Zoom取材中の様子)

もちろん職員体制の都合から、そうした子どもの意向に添えないケースもあります。そんなときもまずは子どもの気持ちを受け止め、正直に「今日は〇〇先生がお休みで難しいんだ」などと状況を子どもに共有し、一緒に解決策を模索していくそうです。

また『朝のつどい』には、子どもの参加を強制しないという特徴もあります。「今から始めるよ」とひと声かけますが、輪に加わるかどうかは子ども次第。やっている遊びの区切りがついたら参加する子もいれば、耳だけで聞いていて、自分の興味のある話になったらさっと入ってくる子もいるそうです。

柴田「一人ひとりに合った参加のスタイルがあっていいんだよと、前園長(汐見和恵先生)から学んできたことを、職員みんなで今も大事にしていますね。

もちろん、実際には試行錯誤しながらの3年間でした。1年目の強烈な記憶として残っているのは、『お昼寝したくない』という子どもの意見から、午睡を一時期やめたこと。ただこれは夕方にみんな機嫌が悪くなって家庭でも大変なことになり、再度話し合う時間をつくりました。最終的には『お昼寝は身体を休めるために必要だから、やっぱり休む時間をつくろう』と職員間で確認し、子どもたちと一緒に改めてお昼寝の環境を整えていったんです。

でも、そうやって当たり前にやっていたことを1つずつ、『子どもの主体性から考えてどうなんだろう?』と真剣に議論をしてきました。私たちがそんな姿を見せることで、子どもたちも一人ひとり、こちらが驚くほどはっきり意見を伝えてくれるんだなと感じています」

“目の前の”子どもと、楽しみながら向き合って

こうした園の保育について、現場にいる先生方はどんなことを感じているのでしょうか? 以前は違う幼稚園で働いていた片平先生は、「嫌だ」「やりたくない」と遠慮のない言葉が飛び交う保育のあり方に「当初戸惑いも感じていた」と振り返ります。

片平「子どもたちが話を聞いてくれなくて、最初はつい怒ってしまったこともありました。でも、集まりに来ない子どもから『何で出なきゃいけないの?』と言われたとき、こっちもちゃんと説明できなかったんです。

集まりたくないのに、なぜ集まる必要があるんだろう。そこから捉え直して、どうすれば子どもたちが楽しんでくれるかを考えていきました」

『フレーベル西が丘みらい園』の片平祐先生『フレーベル西が丘みらい園』の片平祐先生

子どもの「素直な気持ち」が保証される園のなかでは、みんなの声を聞く集いの場をひとつ作るだけでも、保育士一人ひとりに工夫が求められます。3・4・5歳児のグループを担当している片平先生も、絵本やわらべ歌、全員が関われる積み木遊び、その時々に盛り上がっている遊びなど自分で考えた導入をいくつも用意しているそう。

そこで大切になるのが「まずは“目の前”にいる子ども1人に、きちんと向き合う」姿勢だといいます。

片平「絵本を読み始めても1人しか来ないときもありますけど、人数がいないことを過度に不安に思う必要はないと思っています。保育士がどっしり構えて、まずは来てくれた1人と楽しいことをしていたら、自然と子どもたちが集まろうと思う雰囲気になっていくんです。

もう1つ大切にしているのが、『自分も楽しむ』ことですね。僕がピアノで唯一弾ける【にじ】(作詞/新沢としひこ、作曲/中川ひろたか)は、自分自身の大好きな曲でもあるんです。先生が魅力に思ってることは子どもたちにも伝わる気がしていて、去年は『あ、片平先生だ!【にじ】弾いて』ってずっと頼まれ続ける1年でした」

“目の前の”子どもと、楽しみながら向き合って

異年齢のグループだけに、3歳児はおもしろくても、4・5歳児にはつまらない……といったケースも生まれます。そんなときも、参加してこない子どもの声を周りで柴田先生たちが丁寧に拾い、担当の保育士と改善していく日々。

片平先生は「子どもたちが正直な気持ちを話してくれることが、今はすごく心地いい」と話します。

片平「もちろん大変な面もあります。去年の子どもたちに合っていた活動を、今年の子どもたちとやろうとしても当然うまくいきません。

特に今の時期(5月)は、まだまだ模索中ですね。子どもたちと毎年ちょっとずつ作っていくしかなく、『大人の都合で前年の保育をなぞっていても、結局ダメなんだな』と改めて実感しています」

コロナ禍で変えたこと、変える必要がなかったこと

開園3年目となる2020年度、新型コロナウイルス感染症が流行し、日々の暮らしに大きな変化が迫られました。フレーベル西が丘みらい園でも、各ガイドラインに沿って消毒などの対応を行い、先行きが不透明な今もさまざまな配慮をしながら運営を進めています。

一方で、「子ども一人ひとりを大切にしていく」日常の保育内容については、ほとんど大きな変更をせずに済んだそうです。

柴田「子どもの興味・関心に合わせて、あっちで遊びこっちで遊び……と自由に散らばるスタイルだったので、そもそも大人数がぎゅっと狭い空間に集まることが少なかったんです。園として保育を何か根本的に変える必要はなく、主体的な活動の良さをむしろ実感していました。

ただ、行事のいくつかは中止や見直しを迫られました。また、保護者に日々の保育を知ってもらう『保育参加』もまったく行うことができず、とても残念に感じていました」

2019年夏に行った『サンドアート』イベントの様子2019年夏に行った『サンドアート』イベントの様子。どの行事でも、大人と子どもそれぞれに楽しめる内容を意識しているそうです

フレーベル西が丘みらい園の行事には、もともと「無理をして子どもに練習させない」「上手な姿を大人に見せるための行事はしない」という方針があります。とはいえ、子どもの育ちや園の考え方に触れてもらうためには、行事も大切な機会のひとつ。

コロナ禍でも何とかして、保護者と保育を共にする方法はないだろうか——。そこで目を向けたのが、「親子でアート」のコンセプトで行っていた『年末お楽しみ会』でした。

これはもともと保護者に園まで来てもらい、みんなで一緒に製作活動をして作品を持ち帰ってもらう行事です。コロナ禍が続くなかで急速に普及した「Zoom」を使えば、この会を“オンライン化”して開催できると考えました。

2020年のテーマは「クリスマスツリー」2020年のテーマは「クリスマスツリー」。イメージが持ちやすいよう、事前に園でいくつかのパターンを製作して展示し、作り方を書いた紙も配布しました

柴田「材料となる木の枝やどんぐり、毛糸などはこちらでたくさん用意して玄関先に並べ、送迎時に好きなものを持って帰れるようにしておきました。当日はそれらを手元に置いてもらい、保育士が実演しながら『どうですか?』と声を掛けたり、できたものを『どこを工夫しましたか?』と語り合ってもらったりしながら進めたんです。

保護者の方はこちらが思っていた以上に積極的に参加してくださって、前の日から練習していたという方、夢中になってたくさん作る方、お子さんと盛り上がった結果別の作品に仕上がったと話す方など、たくさんの姿を見ることができましたね。『身近な素材だけで、家のなかでこんな楽しみ方ができるとは思わなかった』など、うれしい声もたくさんいただきました」

ICTと保育の「可能性」を模索していく

近年、業務改善を中心に「ICT」の導入が注目されてきています。フレーベル西が丘みらい園では、実はコロナ禍以前からデジタルやオンラインのツールを保育に活かそうと取り組みを進めていました。

例えば写真を使った「ドキュメンテーション」をPCで作成して、園内研修に用いたり。それを「保育日誌」とも兼ねられるようにしたり。

ドキュメンテーション
ドキュメンテーション

また、主体的な保育を深めていくうえでも、ICTの可能性を以前から感じていたといいます。一例として、毎週金曜日にスライドとプロジェクターを使い、1週間の活動のシーンを子どもたちと共有している取り組みを教えてくれました。

片平「子どもが自分のしている遊びを人に伝える機会、逆に他の子が熱中している遊びを見る機会って、実はあまりないんです。写真を一緒に見ながら『あれ何してるの?』と聞いていくと、興奮が蘇ったり、遊びのおもしろさがみんなに伝わったりする時間になるんですね」

ICTと保育の「可能性」を模索していく

片平「コロナ禍で行事をオンライン化して、そういった保育の共有を『園と保護者』の間でしやすくなったことも良かったなと思います。実際に年末お楽しみ会では、各年齢の活動を振り返りながらお見せしていくことで、園の保育をより知ってもらう機会がつくれました」

目指す保育や子どもの姿を「できるだけ園と保護者の間で共有したい」と語る柴田先生も、オンラインのツールに大きな手応えを感じているといいます。

例えばフレーベル西が丘みらい園では、『園庭研究』と呼ぶプロジェクトのなかで、保育士が園庭環境を学ぶワークショップを行っています。その講義は保護者にも門戸を開いているのですが、講師の方に来てもらえるのが平日夜であったため、昨年は1人しか参加できなかったそうです。

柴田今年はそれをZoom開催にしたところ、7人の方が手を挙げてくださいました。園に足を運ぶ必要がなく、家のなかでリラックスして行事や学び合いに参加いただける点は、保護者にとってもメリットが大きいと感じています。

コロナの状況がまだ不透明なので、今後の行事の取り組みについてはっきりしたことを言うのは難しいです。ただ、園としては『場を直接共有したほうがいい活動』と『オンラインのほうがいい活動』をきちんと精査して、保護者とより良くつながれる方法をこれからも模索し続けたいと思っています」

ICTと保育の「可能性」を模索していく

<コロナ禍で見えてきた「園と保護者」の新しいつながり。後編では、さらに「保護者同士」「職員同士」で広がるICT活用の事例もご紹介いただきます>

(取材・執筆/佐々木将史、写真提供/フレーベル西が丘みらい園)

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